聖夜を前に…
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


     




甘味の“ぜんざい”って、
関東と関西では微妙に違うものなの、御存知かな?
お汁粉というのは こし餡をとろかした、
甘くて温かいさらさらした汁の中へ、餅や白玉を入れたもの…ですが。
では、汁の中にあずきの粒が残っているのはどう呼ぶか。
関東では“田舎じるこ”と呼ぶそうですが、
関西ではこれを“ぜんざい”と呼んでます。
関東では“ぜんざい”というと、
水気のない こし餡を餅にかけたものを言うのだそうですが、
関西ではそれを“亀山”と呼んでおります。
(水谷豊さんの初代の“相棒”のことじゃあありません。)
こら
旅先の甘いもの屋さんに入って注文するときは、
注意しないと想いもよらぬものが出て来てかねませんので 念のため。

 「桜餅も違いますものね。」
 「………vv (そうそう)」
 「わたし、関西の道明寺の方が好きですvv」

ちなみに、此処“八百萬屋”では、
オーナーがかつて
日本中のあちこちを渡り歩いた実績をお持ちなお人なので、
色んな土地土地独特のお料理やお菓子もよくよく御存知で。

 「県民あるあるが ちっとも意外じゃないそうです。」

あんこの入った餅入りのお雑煮も、
キャベツのテンプラも、うどんが入った茶わん蒸しも、
知ってるその上、そりゃあ美味しく作ってくれるんですよぉvvvと、
人差し指を振り振り、平八が楽しそうに解説しておれば、

 「ほれ、温かいお汁粉、お待ち遠さん。」

ランチタイムが一段落して、店舗の方がお暇な時間帯なのか。
住居にあたる方の居間、おこたが出ているお茶の間へまで、
店主の五郎兵衛が直々にご注文の品だぞと、
可愛らしい蓋つきの塗り椀を三つ、
刻んだお新香と共に運んで来てくださった。
自毛だという銀の髪を短かめワイルドに刈った髪形も相応
(そぐ)う、
屈強な体格もそれは頼もしい壮年殿は、
こちらの店主であり、シェフであり。
してまた、もののふの生まれ変わり揃いの彼女らとは、
乱世の後という微妙に落ち着かぬ時代だった前世でも、
ほんの少しの間だけ行動を共にしていた、元・お侍でもあって。
その頃も、既に壮年という年頃であり、
様々な蓄積が成したそれか、懐ろが深いところも同んなじで。
そんなせいだろうか、

 「ゴロさん、試験終わったから明日っから手伝えますよ?」

とろりとした粒あん汁粉の中から、
ほかほかの白玉を細いお箸で器用に持ち上げつつ、
もう冬休みも同然と嬉しそうにお声を掛けた平八へ。
おっと意外そうなお顔をしたものの、

 「だったら存分に遊べばよいさね。」

昨夜だって“苦手な古典だ〜”と遅くまで唸っておったろにと、
気づいていたよとすっぱ抜き。

 「やっと解放されたのだから、あとは遊べ遊べ。」

確かバーゲンももう始まっておるのだろ?と付け足して。
前掛けのポッケで携帯が呼んだか、
平八からの返事も待たず、ごゆっくりと七郎次や久蔵への会釈を残し。
店のほうへと戻ってしまった、大きな背中だったのへ、

 「………もうもう、ゴロさんたらもうっ。」

口許とがらせ、頬ふくらませと、
ただでさえ童顔なお顔を、
ますますのこと幼い色合いにて
むむうと膨らませる ひなげしさんだったりし。
双方ともの気持ちが判らぬではない。
自分たちだって、かつての大人だった頃、
小さな童たちも手伝いたいと躍起になったの、
何とか宥めすかしては。
作業の現場へは 危ないから寄らぬようにと、
言い聞かせるのに苦労した。
一緒に頑張りたいという気持ちは判るが、
子供は、子供のうちにしか出来ぬことを、
まずは頑張り、堪能すればいい。
忙しい目や危険な目なんてのは、
大人になったらイヤってほど抱えにゃならんのだから…と、
前世の、戦さに身を投じていた自分らなら、
ちゃんと理解していたものの、

  ―― アタシらだけが、子供の側に据えられようとはね。

そりゃあ まあまあ、
誰へ当たっても詮無いことじゃああるけれど。
年の差はそうは埋まらぬと言いますか。
要領や勘は思い出せても、
口惜しいかな、今の十代の身では、
体や手がついて来ないってことは山ほどある。
なまじっか覚えていることなだけに、
かつてはこなせたのになと思うと、
ますますのこと焦れったくてしょうがなく。

 「わたし、あの頃より
  お料理とか出来るようになってますのに。」
 「うん…それは判るよ、ヘイさん。」

腹立ち紛れか、
愛らしい白玉をやや荒々しく あむりと頬張る平八の言いようへ、
七郎次や久蔵も大きく頷いてやり、

 「ワタシじゃあ“お手伝い出来ます”なんて言えないもん。」

裁縫や編み物は得手だけど、
料理はイマイチ経験値が足りない白百合さんは、
かつては勘兵衛を助けて
何でも器用にこなした自分だったことも思い出したもんだから。
忙しい中、疲れているだろに何とか時間を作ってくれる壮年警部補へ、
こちらこそ何かしてやりたい……とは思うのだけれど。
お料理にせよ、気の利いたやりとりにせよ、
ぼややんと浮かぶ一端の手際が、
だがだが現実の身には宿ってないのが却って歯痒かったし、と。
まだ温かいお椀を見下ろし、
切なげに溜息ついてしまう七郎次の傍らから、

 「……………おれも。」

ぽそりと呟いたのが紅ばらさん。

 「…え?」
 「だって、久蔵殿は結構なんでもこなせる器用な……。」

器用なお人でしょうにと言いかかった七郎次へ、
細い肩の上、ううんとかぶりを振って見せ。

 「ヒョーゴの役には立ってない。」

人斬り以外、何にも出来なんだ昔の自分に比すれば、
マフラーを編めるほどには、
はたまた お菓子が焼けるほどには器用な現世の自分。
だがだが、それらはただ単にお嬢様の趣味の一環だしと、
しょんもりと肩を落としてしまい。

 「刺繍も繕いものも、ヒョーゴの方が上手いし。」
 「え?」
 「ホットケーキがまた上手で……。////////」
 「ええっ?」

これは意外なと、七郎次や平八がのけ反った新事実は、だが、

 「……あ、でも有り得るかな。」
 「そだね、榊せんせって器用そうだもん。」

妙に納得を呼んでしまい、

  「………。」×3

そのまま沈黙を招いたほどの恐ろしさ。

 「クリスマスだの年末だのったって、
  大人の皆さんは忙しいもんね。」
 「そうだよね。」

実家の親御たちや家業が…というのじゃあなくて、

  ゴロさんたら、
  年末や新年の進物用のお菓子の注文受けてるらしいし。
  風邪も流行るから医者も忙しい。
  切羽詰まった人が増えて、勘兵衛様だって…。

なんで普通のサラリーマンじゃないのかな。
ああでもそれだと、こんな風に知り合い直せはしなかったかな。

 「イブなんて特別な晩だってのに、約束のしようがないんだものね。」

色んなドラマが生まれる晩に、
こーんな可愛い娘さんたち放り出してサ…と、むくれたくもなるけれど。
じゃあじゃあ、
お仕事を放り出してまで こっちを優先されたらホントに嬉しい?

 「…それはヤだな。」
 「うん。」
 「…。(頷)」

お仕事への責任、きっちり果たす頼もしいところが好きでもあるのだし、
そんなあの人、駄々こねて困らせるなんてサイテーだというの、
重々判ってるから、あのね?

  「……………………?」
  「……、…。(? ……頷)」
  「…、…、…vv (頷、頷、頷vv)」

お顔を見合わせ合ってから、
ちょっぴりまさぐり合うよに視線を合わせ、
すぐさま“ぷくくvv”と吹き出してしまった彼女らで。

 「わたしたちって 結構いい子ですよねぇvv」
 「ほ〜んとvv」
 「…、…vv (頷、頷vv)」

今年は大人しくもいい子で過ごそうと、
言わず語らずの内にも意見は一致。
今年は23日から3連休だから、尚のこと、
どこ行ったって混んでるだろうし。
クリスマスミサのあと、ホームパーティでもやりましょうか。

  わあ賛成vv
  じゃあ、オレんチで。
  え? いいの久蔵?
  ご両親はホテルがお忙しいのでしょう?
  だから空いてる。

シチのところは、来客があるんじゃないのか?
父上が正月の賀詞とか依頼されないか?と。
そういや慶事に縁の多い、
エクセレントなホテルのお嬢様でもあるからか、
そんな気まで回せる久蔵さんなのへ、

 「…やだ、なんかアタシじんと来ちゃいましたよぉ。」

そろりとお顔を覗き込まれた七郎次が、
胸元に手を伏せ、素直に感動しちゃったと表明する。
子犬みたいに懐いてくれる久蔵だったの、思い出してたその上へ、
あんな不器用だったお人が、そんなまで気を回せるようになろうとはと。
今更ながら、母親のような甘酸い感動に胸が疼いたらしくって。

 「………シチさん、それって公私混同。」
 「いやヘイさん、それだと微妙に喩えが変だ。」
 「???」

漫才にしたつもりはなくの、当人たちは真剣本気。
そんなこんなで、師走のヲトメたちは、
今年のクリスマスをそりゃあいい子で過ごそうと、
それが恋人さんたちへの一番の安堵につながるらしいのだと、
真摯に うんうんと頷き合っての、意を決したのでありました。






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 *今年の聖夜は自粛するらしいですよ、お嬢さんたち。
  年の瀬の慌しい頃合いですし、
  それが一番ですよね、うんうん。


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